新たな体験を提供する技術「XR(クロスリアリティ・エクステンデッドリアリティ)」の可能性
はじめに
現在、さまざまな分野でXRを活用したサービスの提供が始まっています。XRとは、一般的にリアル世界とバーチャル世界を融合させることで新たな知覚を体験させる技術の総称で、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)などが含まれています。最も認知されているのはエンターテインメント分野で、現実世界にキャラクターを登場させたり、バーチャル空間で戦うオンラインゲームなどご存知の方も多いのではないでしょうか。現在はこの分野での活用が目立っていますが、ビジネスや教育、医療サービスをはじめ、さらなる広がりが期待されています。今回は、XRの説明から現在の活用例、今後の期待などについて解説します。
XRの技術
前述した通り、XRとはさまざまな技術の総称を指します。どんな技術が使われているのでしょうか。
VR(Virtual Reality・仮想現実)
ヘッドマウントディスプレイなどを装着し、視界全体にCGや360度カメラの映像を投影することで、バーチャル空間に実際に入り込んだかのような臨場感が体験できることが特徴です。ゲームなどエンターテインメントでの活用が目立っていますが、医療現場の研修、旅行のバーチャル体験、接客の社員研修などに利用されています。
AR(Augmented Reality・拡張現実)
現実の世界に仮想の映像を重ね「拡張」して見せる技術です。人の顔に動物のパーツを組み合わせるアプリや、カメラで部屋を撮影しながらリアルタイムに家具を重ね合わせたり、最近では観光地案内などでも利用が進んでいます。例えば、カメラ越しに道案内を表示させる、また史跡や建造物に歴史の情報を重ねるなどの活用が増えています。案内の多言語化により、より利便性が高くなります。
MR(Mixed Reality・複合現実)
現実の世界をセンサーやカメラで計測し、現実世界とARを融合した空間に、位置情報を含めた3D映像を表示させる技術です。例えばデバイスのセンサーやカメラを利用することで、空間上の操作ボタンをジェスチャーで操作したり、仮想の3Dの物体を動かすことなどを可能にする技術です。また空間上に複数人のアバターを同時に表示させることで、よりリアル感の高いリモートコミュニケーションの実現も期待されています。
SR(Substitutional Reality・代替現実)
これまで説明してきたXRと違い、これから実用化が期待されている技術です。VR、AR、MRは、利用者が仮想現実であると認識できますが、SRは、過去の映像や音声を現実の情報と組み合わせることで、限りなく現実に近い虚構を現実のように錯覚させる技術です。過去の人物や事象を現在の映像と混同させることで、あたかもその時代に入り込んだように見せることを可能にします。SRはまだPoC段階のため、新たな利用方法が期待されています。
消費行動の変化とXRへの期待
消費者庁の調査(令和4年版消費者白書)によると、
『従来からの消費行動である、モノ(商品)を購入し所有する消費形態は「モノ消費」、旅行、習い事、芸術鑑賞等の機会やサービスを消費する形態は、「コト消費」といわれています。一方、その時、その場所でしか体験できないスポーツイベントやフェス等で、感動を他の参加者と共有するとともに、自らも参加者として盛り上がりに寄与し一体感を得る消費形態は「トキ消費」といわれています。近年、若者の消費形態は、「コト消費」から「トキ消費」に移行しているといわれており、若者の「トキ消費」への注目が高まっています。』
との記載があります。
このように、モノからコト、現在ではトキ消費の傾向が高くなっているようです。トキ消費には、流行語にもなった「推し活」やコミュニケーションも含まれると考えられます。XRはよりリアル感を持ったコミュニケーション手段として、またコンテンツを拡充していくことでさらに発展していくのではないでしょうか。
ビジネス分野においても、建築、製造、企業研修、医療・介護、教育、防災、芸術など、さまざまな分野への応用や、体験者に合わせた広告表示など、より豊かで便利な日常生活に寄与する技術として期待されています。
XRの活用例
医療分野
これまで設備が整った環境でしか行えなかった救急医療現場向けのトレーニング、VRを使った手術のリハーサルやリハビリの支援といった活用が行われています。
製造分野
実際の工場を画面上に再現し自由に動き回れるバーチャル工場見学、3DVRで空間に線を描くことで車両をデザイン、MR技術で組み立て工程の教育などに利用されています。
教育分野
実物を見ることが難しい生き物などの再現、リモート授業への活用、バーチャル空間での実験・体験など、現実に近いシミュレーションを行うことで、学習モチベーションのアップにつながる効果も期待されています。
また企業では、実技訓練や社員教育などへ活用が進んでおり、例えば客室乗務員の緊急時訓練や、鉄道での労災事故を想定した安全教育、ドライバーの訓練、接客対応訓練に効果を上げています。
これらはいくつかの例であり、XRには未開拓の領域がまだ多くあると言えるでしょう。
XRがもたらす働き方の変化や期待
XRは高度なコミュニケーションツールとして様々な業界で導入が進んでおり、働き方に大きな変化をもたらしています。物理的な制限から解放され、場所や時間にとらわれないフレキシブルな働き方や、遠隔操作・遠隔指示による現場サポートを可能にしたり、身体的なハンディキャップを抱える人々が現実世界で直面するハードルや制限を克服して参加しやすい空間を作り上げるなど、柔軟で多様な働き方の実現に期待されています。臨場感のあるバーチャル会議室に、感情表現ができるアバターを介して参加することで、人種・国籍・性別・年齢などによる偏見が起きづらい環境を作ったり、会議の音声の記録やテキスト化するホワイトボードの機能、異言語でのコミュニケーションをシームレスにする翻訳機能など、リモートワークでの多様なコミュニケーションを補助する機能も続々と登場し、これからの新しい働き方でますます活用されていくのではないでしょうか。
まとめ
XRは、高い再現性や没入感で、よりリアルに近い体験を提供する技術です。話題に上がるのはエンターテインメント分野が目立ちますが、XRはさらに多くの分野での活用が進んでいます。 しかしXRの研究はまだ黎明期とも捉えることができ、私たちの生活に密着した活用にはもう少し時間がかかりそうです。技術の進歩とともに、さらなる革新的な応用が生まれることが期待されます。 BXOとしても、今後ビジネスで実用に耐えうるサービスを提供し、今までにないワークスペースの実現を目指しています。