サイバー攻撃が巧妙化・複雑化し、企業にとってセキュリティリスクが増加する中、企業資産ともいえるデータへのアクセスに使用するアカウント情報の管理はますます重要になってきています。前回は、『効率的なアカウント管理を実現する「アイデンティティ・ガバナンスと管理」とは』として、「IGA」がアカウントや権限の情報を収集し、一元管理に役立つことを紹介しました。今回のコラムでは、アカウントの中でも特に強力な権限を持つ「特権アカウント」を適切に管理するための方法についてご紹介します。

はじめに:特権アカウント管理の重要性

特権アカウントとは、通常のユーザー以上の権限を持つシステム管理者や、セキュリティ担当者が使用する高度なアクセス権を持つアカウントのことを指します。このアカウントは、企業のITシステムやサービス、ネットワークインフラなどの維持・管理に使われる必要不可欠なものですが、その強力な権限ゆえに、万一悪用された場合、機密情報の漏洩や改ざん、さらにはシステムの停止など、重大なインシデントが引き起こされるリスクがあります。最近のサイバー攻撃の中でも、この特権アカウントを狙った攻撃が増加しており、その深刻さがうかがえます。

実際に起った被害として、電子決済会社のID管理の不備から特権アカウントが利用され、多額の不正利用が発生した事例や、通販会社の特権アカウントが不正アクセスにより利用され、顧客情報が流失した事例などがあります。これらは、特権アカウントの管理が適切に行われていない場合に、企業にとってどのような被害が起こるのかを示すものとなっています。

特権アカウントに関するセキュリティリスクとは

企業での特権アカウントの扱いに伴うセキュリティリスクには、以下のものがあげられます。

特権アカウントによる機密情報への不正アクセス
特権アカウントが悪用されると、通常はアクセスできない重要な情報に不正アクセスされ、データの盗難や改ざんが発生する恐れがあります。企業にとって重大な被害をもたらすリスクがあるため、特権アカウントの適切な管理と監視は不可欠です。定期的なパスワード変更などで対策を講じることは可能ですが、管理者の作業負担や人的ミスといった課題が依然として残ります。

特権アカウントの使い回しによるリスク
複数の管理者が同じ特権アカウントを共有して使用している場合、誰がどの操作を行ったのかを正確に特定することが困難になります。これにより、問題が発生した際に責任の所在が曖昧になり、不正な操作が行われても迅速に対応することが難しくなります。

システム管理者が離任した場合のリスク
すべての認証情報やシステムの管理権限を把握しているシステム管理者が離任する場合、そのアカウント情報が不正に利用されるリスクがあります。離任後に元管理者が意図的、または意図せずにこれらの情報を悪用する可能性があります。

初期設定時のアカウントを利用しているリスク
OSのインストールやソフトウェアの初期設定時に自動で作成されるアカウントが、いわゆる特権アカウントです。この初期設定のアカウントをそのまま使用し続けるケースがあります。しかし、これらのアカウントは多くのシステムで共通の初期設定として使われることが多いため、セキュリティ上の脆弱性を引き起こしやすいと言えます。

特権アカウントの管理でセキュリティリスクを低減する「PAM」

こうした特権アカウントの管理に伴うリスクを解消するために使われるのが、PAM(Privileged Access Management)という仕組みです。PAMは、特別な権限を持つアカウントを一元的に管理し、適切に監視することでセキュリティリスクを低減します。例えば、サーバーやネットワーク機器、クラウドサービスにアクセスする際、PAMを使うことで安全なリモート接続が可能になり、不正なアクセスや操作ミスを防止し、さらにはシステム全体のセキュリティを強化する役割を果たします。

PAMが持つ役割と機能とは

PAMは主に以下の機能を持ち、特権アカウントの保護を強化します。

特権アカウントの管理と制御:
PAMは、特権アカウントへのアクセスを厳密に制御します。特権アカウントを使用する際に作業に必要な最小限の権限だけを付与することが可能となります。そのため万一アカウントが悪用された場合でも、被害を最小限に抑えることができます。

セッションのモニタリングと記録:
特権アカウントを使用して行われるすべての操作は、リアルタイムで監視され、そのセッションが記録されます。この機能により、後から操作内容を監査することが可能となり、不正な操作や異常行動を発見することが容易に行えます。

自動化されたパスワード管理:
特権アカウントのパスワードを自動的に管理し、定期的にパスワードを変更する機能を備えています。これにより、パスワードが流出したり、不正に使用されるリスクを大幅に低減できます。また、パスワード管理が自動化されることで、管理者の負担も軽減されます。

PAMの利用イメージ

PAMの利用イメージ

PAM導入のメリット

特権アカウントへのアクセス管理の強化により、不正アクセス防止とリスクの早期発見を通じ、セキュリティインシデントの未然防止に繋がります。また、特権アカウントの使用履歴を正確に記録する監査機能は、法的規制やコンプライアンス要件に対する証拠の容易な提供で、監査時の対応がスムーズになります。さらに、重要なシステムやデータへのアクセスを正しい管理者に限定することで、ITシステムの安定した運用が確保され、業務継続性の維持にも効果があります。その他、自動化されたパスワード管理やアクセス制御により、セキュリティ管理にかかる手間やコストが削減されることで、より重要な業務にリソースを集中させるなどの効果も期待できます。このようにPAMは、企業のセキュリティ強化、コンプライアンスの遵守、業務継続性の確保、そして運用効率の向上に寄与する機能を提供します。

まとめ

今後、企業が直面するセキュリティリスクはますます増加することが予測されます。その中で、PAMは特権アカウント管理の要として、企業のセキュリティ戦略において重要な役割を果たします。アカウント管理に有効なサービスはPAM以外にもいくつかあり、それぞれ特徴や機能が異なります。単体で活用するだけではなく、企業のセキュリティポリシーに応じて、適切に組み合わせることで、より効果的にセキュリティ強化を図ることができるでしょう。

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